過剰在庫が会社や事業に与える影響とその改善方法
過剰に在庫があるとよくないことは、もちろんどの会社でも理解されていると思います。ところが、過剰在庫が具体的にどんな影響を及ぼすのかまでは、意外と知らなかったりするものです。
そこで当記事では、過剰在庫が経営に与える影響や過剰在庫の改善方法について、くわしく解説していきます。過剰在庫を改善したいとお考えの会社様は、ぜひ最後までお読みください。
目次
売上と期末在庫の関係とは
一般的な考え方として、「決算時に在庫が多ければ利益が増えて、その分税金を多く支払わなくてはならない」といわれています。この理由は売上から利益を導く計算の流れをみるとよく理解できるはずです。
利益の大元となる「売上総利益」を求めるには、売上高から売上原価(仕入額)を差し引けば算出できます。
売上高−売上原価=売上総利益
ただし売上原価には、売れた分に対する仕入額しか計上できません。かりに当期の売上が1,500万円・期首在庫が100万円・当期仕入額800万円・期末在庫が200万円だとしましょう。
まず以下のようにして、当期販売した商品の合計額を求めます。
期首在庫100万円+当期仕入額800万円=900万円
売上原価は、900万円から売れなかった在庫を除いて計算しますので、700万円です。
(当期販売分900万円−期末在庫200万円=700万円)
したがって、当期売上1,500万円から売上原価700万円を引いた800万円が、売上総利益になります。このように「期末在庫は売上原価に含まれない」「期末在庫が多いと税金が高くなる」と、ぜひ頭に入れておいてください。
期末在庫の求め方「原価法」
期末在庫の重要性がわかったところで、今度は期末在庫の算出方法について、詳しく解説していきます。
期末在庫の調査方法には、「原価法」と「低価法」の2種類あります。どちらを選ぶかは各会社の自由ですが、なにも申請がなければ「原価法」で計算されるのが一般的です。
今回はよりポピュラーな「原価法」について解説します。原価法の計算法は、以下の6つです。
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それではひとつずつみていきましょう。
1.総平均法
総平均法は、期首在庫と期中仕入額を合計した金額の総平均単価を、期末在庫の単価に設定する方法になります。つまり、前期からの繰越し分(期首在庫)と期中仕入れ分が均等に売れ、かつ均等に売れ残ったとみなすわけです。
ちなみに1回の計算期間は、年間だけでなく1カ月・6カ月という単位で自由に選べます。
総平均法は単純にすべての金額を平均すればいいだけですので、計算の簡単さが大きなメリットです。その代わり、決算時までは正確な原価を確定できません。(計算期間を6カ月に設定すれば解決できる)
2.移動平均法
移動平均法は、商品を仕入れるたびに既存在庫との平均単価を計算して、売上原価を決定する方法です。期末にまとめて平均する「総平均法」と比べて、毎回最新の相場に修正できるのが大きなメリットといえます。
そのため、もし平均単価が上がれば連動して販売価格を値上げするなど、現実に即した対策が取りやすいです。しかしその分、毎回こまかく計算しなければならず、事務処理が煩雑になってしまいます。
ちなみに移動平均法と総平均法は、計算時期が異なる(毎回の仕入れ時or期末)だけで、最終的にやることは同じです。
また移動平均法と総平均法は、どちらも月単位で計算してもよいことになっています。計算の煩雑さを解消したい場合には、月末締めを取り入れるのもひとつの方法です。
3.最終仕入原価法
最終仕入原価法はその名前の通り、決算からみて最後に仕入れたときの単価を、在庫全体の平均単価に設定する方法です。
たとえば、当期仕入れが以下のような金額だとしましょう。
1回目:250円
2回目:450円
3回目:600円
4回目:550円
このように仕入単価がバラバラなケースでも、平均ではなく、あくまでも4回目の「550円」が在庫の平均単価になります。何回仕入れをしようが、とにかく最後の仕入価格が在庫の単価になりますので、計算は非常にシンプルです。
一方で各仕入れ価格の変動が大きいと、その分誤差も大きくなります。さきほどの例でいえば、最終仕入価格は1回目に仕入れた価格の倍以上ですから、誤差の影響は意外に大きいといえます。
そういう事情から最終仕入原価法は、会計基準に定められていません。とはいえ、在庫の大部分が最終仕入れで購入した商品の場合は、最終仕入原価法を使用してもとくに問題はないでしょう。
4.先入先出法
先入先出法とは、古い商品から順番に販売したと仮定して、棚卸資産の単価を設定する方法です。
先入れ先出しの考え方は、「FIFO」(ファースト・イン・ファースト・アウト)とも呼ばれ、商品の鮮度を維持する必要がある「物流や小売業界」で広く浸透しています。
通常、先に仕入れた商品から販売していくのが当たり前ですから、この先入先出法は現実を的確に反映した方法ともいえるでしょう。
その代わり、常に古いものから処理していく前提で計算するので、途中で仕入価格が大幅に変動しても対応できないデメリットがあります。仕入価格の変動が大きすぎる場合は、ほかの評価方法も検討した方がよいかもしれません。
5.個別法
在庫の仕入れ価格をそのまま平均単価に設定する方法を「個別法」といいます。商品や部品をひとつずつ管理しますので、個別性の高い「宝石・貴金属・美術品・不動産」などに限定して用いられる方法です。
したがってスーパーのように、同じ商品を大量に仕入れて販売する事業形態では、個別法は使えません。経理の処理や在庫管理が、あまりにも煩雑になるからです。
メリットとしては、実際に仕入れた価格をそのまま在庫の単価に設定しますので、今回紹介した6つの方法のなかでもっとも正確に在庫価格を算出できます。
ただし個別法で計算するには、在庫それぞれに対応した仕入れ額を個別に記録しなくてなりません。また在庫の仕入れ値であることが証明できるように、「注文書・納品書・領収書」などをすべて保管しておく必要があります。
正確さの代償として、非常に手間がかかる方法です。個別法は前述の通り、高単価かつ個別性の高い商品以外には使用しない方がいいでしょう。
6.売価還元法
期末在庫の売値に原価率を掛けて、在庫の価値を算定するのが「売価還元法」です。ここまで紹介した5つの計算方法が「仕入れ価格」を基準にしているのに対して、唯一売価還元法だけが「売値」をもとに計算されます。
売価還元法は実際に売れた価格をもとに計算しますから、実情を正確に反映した結果が期待できるでしょう。
とはいえ取扱商品の多い小売店などで、ひとつずつ売価を計算するのはかなり大変です。そのため、似たような原価率の商品を同じグループにまとめて、グループごとにざっくりと計算する方法がよく用いられています。
売価還元法は、前述の通り大まかなグループごとの計算でよいため、事務処理の負担を軽減できるのが大きなメリットです。ただし商品数が多い店舗では、商品のグループ分けが少々大変かもしれません。
グループ分けの判断がつかない場合、あとから修正する手間を考えれば、最初から税理士などの専門家に相談しておくことをオススメします。
過剰在庫が与える悪影響とは
過剰在庫は資産とみなされ税金が高くなるという話をしましたが、過剰在庫が会社に与える影響はそれだけではありません。この章では、過剰在庫が与える悪影響を以下の4点から解説していきます。
- 在庫処分による収益の悪化
- 管理コストの増大
- 品質劣化・型落ち発生
- キャッシュフローの悪化
それでは解説していきます。
在庫処分による収益の悪化
ここまで何度もお話しているように、決算時に大量の在庫があれば資産とカウントされ、その分税金が増えます。そのため会社は、値引き販売や最悪廃棄をしてでも在庫を処分しようとするわけです。
そうなれば当然、本来入るはずだった売上と利益を失うことになります。在庫を格安で手放していますから、おそらく事前に支払った仕入代金すら回収できないでしょう。
さらに後述する、管理コストの増大や品質劣化による値引き販売の影響で、ますます収益が悪化します。このように過剰在庫は、2倍3倍となって会社に悪影響を及ぼすのです。
管理コストの増大
過剰在庫による管理コストの増大も見逃せない問題です。当たり前の話ですが、過剰な在庫を保管するためには、より広い保管場所が必要になります。もちろん管理する人員コストも、これまでより高くなるでしょう。
かりに自社倉庫では保管しきれない場合、別な場所に倉庫を借りなくてはなりません。そうなれば、倉庫のリース料やセキュリティコスト・輸送費・在庫管理専属スタッフもあらたに必要です。
品質劣化・型落ち発生
商品の種類にもよりますが、長期間保管するうちに、在庫品の品質は劣化するのが一般的です。劣化がしにくい商品であっても、型落ちや陳腐化(類似商品の流通)などにより、商品の価値は在庫期間が長引くほど低下します。
劣化や型落ちが発生すると通常の価格では売れませんから、大幅に値引きをしなければなりません。
また洋服など流行性の強い商品や、食品・手帳・カレンダーのような販売期間が限定されている商品は、過剰在庫になれば販売自体が困難です。完全に販売が困難になる前に、なるべく早く売り切る戦略を講じる必要があります。
キャッシュフローの悪化
過剰在庫はいうなれば、現金が会社の倉庫に眠ったままの状態です。売却できない限りは、すでに支払った仕入代金すら回収できないうえに、正常に売却できれば得られるはずだった利益も手にできません。
その結果、名目上の資産が増えているにもかかわらず、会社に現金が足りなくなってしまいます。
また在庫の現金化ができないと、保管コストと人件費も余計にかかってしまうのは、さきほどお話しした通りです。ここまで解説してきた4つの理由から、過剰在庫はなるべく早く解消する必要があると、ご理解いただけたのではないでしょうか。
過剰在庫の改善方法とは
過剰在庫の悪影響があらためて頭に入ったところで、この章では過剰在庫の改善方法についてご紹介していきます。今回ご紹介する過剰在庫の改善方法は以下の3点です。
- 適正な発注計画
- 在庫管理方式の改善
- 保管場所の管理・整理の徹底
それでひとつずつ解説していきます。
適正な発注計画
過剰在庫を改善するには、まずなんといっても適正な発注計画が不可欠です。通常発注をかける際には、平均出荷量・リードタイム(発注から納品までにかかる時間)・安全在庫(欠品を発生させない最低限の在庫量)などを加味して発注量を決定します。
平均出荷量・リードタイム・安全在庫に関しては、これまでのデータがありますから、おそらくあまり大きな誤差は生じないでしょう。それよりも影響が大きいのは「需要予測」です。
トレンドは移り変わりが激しいですし、先月売れたものが来月も売れるとは限りません。リーマンショックやコロナのように、予想不可能な問題が需要を押し下げるリスクもあります。また季節商品の場合は、気温や雨量が予想外の動きをすれば、需要は予測と大きくズレ込むことが考えられます。
需要予測の方法としては、「移動平均法」や「指数平滑法」といった過去の実績から割り出す方法だけでなく、これからはAIを活用してさらにこまかい需要予測をおこなう必要があるでしょう。
在庫管理方式の改善
もしまだ手書きで在庫管理をしているならば、すぐに「在庫管理ソフト」を使った管理方式へ切り替えましょう。
手書きは最終的にエクセルなどへ転記する必要があり、どうしてもミスが多くなります。紙伝票の管理と転記の手間を省くためには、ぜひともバーコードなどを活用したいところです。
また単純な在庫管理だけでなく、これからはより精度の高い需要予測やデータ分析をおこなわなければなりません。そのため在庫管理を担当する社員には、在庫管理の知識と、PC・ソフトに対する一定レベル以上のスキルが求められます。
責任者を筆頭に、担当社員のスキルアップ研修なども検討する必要があるでしょう。
保管場所の管理・整理の徹底
在庫管理システムをデジタル化したら、今度は保管場所の改善です。やるべきことは大きく「保管場所の区分けの徹底」と「整理整頓」にわけられます。
まず同じ種類のものはまとめて同じ場所に保管し、ほかのエリアへ置かないことを徹底しましょう。これだけでも管理の手間が、かなり楽になります。もちろん通路や棚・整理ボックスに、エリア名・商品名・サイズなどを表示するのも忘れないでください。
実際の在庫管理は管理ソフトでおこないますが、誤出荷を防ぐためにも、必ず在庫品にわかりやすく表示をします。商品名・管理番号・個数・入荷日などが一目でわかるように、シールや札などに詳細を明記して貼りつけておきましょう。
まとめ
今回ご説明したように、過剰在庫は会社の経営に悪影響をおよぼします。過剰在庫はいうなれば、現金が倉庫に眠っている状態です。在庫を売却しない限り、仕入れ代金すら回収できず、キャッシュフローをどんどん悪化させていきます。
当記事では、過剰在庫の改善方法として、発注計画・管理方式・保管場所の整理整頓の3点をご紹介しました。
どれも過剰在庫の改善には欠かせないものばかりです。自社の過剰在庫解消に活用していただければさいわいです。